Balkan Folk Music Discography

バルカン半島~黒海周辺地域の音楽と踊りを深掘りするブログ

軍隊の踊り(Razmakan Pareri Sharan)

先日(2022/1/11)公開されたばかりの、アルメニアダンス・アンサンブル BERT による「軍隊の踊り(ラズマカン・パレリ・シャラン)」を紹介します。副題は「シュニク地方・スパラペティ・ベルド」。

まずは映像を見てみましょう。

 

www.youtube.com

アルメニア南部の山岳地帯の雄大な景色に、ズルナ(リード楽器、Armenian Zurna、トルコのより小型)とドール(大太鼓、Dhol)の強烈な音が鳴り響きます。そして、一風変わった独特の民族衣装を着た若者たちが伝統的な一連の軍隊の踊り(何種類か混合)を勇壮に踊ります。とにかく景色が素晴らしいですね。

 

シュニク地方とはアルメニア最南部の地方。東西をアゼルバイジャンの領土(アゼルバイジャン本国とナヒチェヴァン自治共和国)で挟まれた地域です。

f:id:YelelemAlagoz:20220112233010p:plain

アルメニア・シュニク地方
TUBS, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

副題にある「スパラペティ・ベルド」というのは、最高司令官(スパラペト)の要塞(ベルド)の意。18世紀、オスマン帝国に対するアルメニア人反乱軍で軍司令官を務めたムヒタル・スパラペト(Mkhitar Sparapet)の軍事基地として建てられた要塞で、ゴリスからナゴルノ・カラバフ地域(アルメニア名:アルツァフ共和国)へ渡る“ラチン回廊”の手前にある村フンゾレスクに位置します。

フンゾレスクは美しい岩の峡谷と古代の洞窟集落で有名な場所ですが、前出の映像はその岩山の上で撮影されています。景色をよく見ると、岩壁のいたるところに穴が開いているのが見えると思います。20世紀中頃までは人も住んでいたとのことですが、現在は誰も住んでおらず、厩舎や倉庫として利用されているそうです。

 

それにしても、踊っている人たちのまわりには演奏グループも音響機材も何もないのに、どうやって音を聞いて踊りを合わせているんでしょうね?おそらく草の茂みの中にスピーカーをうまく隠しているのでしょうが、よくよく考えるとあるべきものがないことが奇妙に思えてきます。またドローンがなければこんな美しいシーンも撮れないわけで、伝統的な踊りも最新技術に支えられているんだなぁと、感慨深くなりました。