Balkan Folk Music Discography

バルカン半島~黒海周辺地域の音楽と踊りを深掘りするブログ

コツァーキャ(Kotsákia)

今回はギリシャです。エーゲ海に浮かぶナクソス島のコツァーキャを紹介します。

 

先に場所を示しておきましょう。ナクソスは、エーゲ海中央に位置するキクラデス諸島の中で最も大きな島です。ギリシャ神話では、ナクソス島のザス山の洞穴で最高神ゼウスが幼少期を過ごしたと言われており、アポロ神殿跡やディミトラ神殿跡など島の各地に有名な史跡があります。

今回の舞台はナクソス島中央の山岳部の村、アピランソス付近です。下に地図を示します。地図右下のをクリックして拡大していくとアピランソス村の位置がわかります。

 

それでは、コツァーキャの音楽を一つ紹介します。いくつか異なるバージョンがありますが、次の動画はナクソス島出身の音楽家ニコス・ハヅォープロス(Νίκος Χατζόπουλος / Nikos Hatzopoulos)のバージョンです。

www.youtube.com

Discography Information

曲名:Kotsakia
作曲:Traditional
演奏:Nikos Hatzopoulos & The Union From Koronida In Naxos
アルバム:Brovalete Sta Domata Na Dite Xefantomata / 6
レーベル:Protasis - Greece
リリース:2005年

 

音楽は、一瞬シンセサイザーを彷彿させるような民族楽器ツァンブーナ(Τσαμπούνα(Tsampoúna)/ Tsambuna, Tsabuna;バグパイプの一種)の音から始まり、続いてダウーリ(Νταούλι(Ntaoúli)/ Dauli;大太鼓)とパーカッションの力強いリズムが加わります。ニコス・ハヅォープロスのバージョンでは、後続の伴奏とパーカッションが現代風なためか、民俗っぽさが薄めのクールなアレンジになっているように思います。

ツァンブーナは山羊皮のバッグの先に2本のチャンター管(メロディ管)を平行に取り付けた構造をしており、異なる2音を同時に鳴らすことができます。そのため、和楽器の笙のように音をハモらせたり不協和音を唸らせたりアクセントをつけたりと、複雑なアーティキュレーションを演出することができます。下の動画はツァンブーナの演奏例です。

www.youtube.com

 

次に歌について、曲のタイトルはコツァーキャ(Κοτσάκια(Kotsákia)/ Kotsakia)と読みます。シンプルにコツァキアと読んでもいいですが、本ブログではできるだけ現代ギリシャ語発音に近くなるようコツァーキャと表記します。

コツァーキ(Κοτσάκι(Kotsáki)/ Kotsaki)というのは8音節の文句を二つセットにした二行連句という詩歌の形式を指します。ギリシャの島々ではこのような詩歌をマンディナーダ(Μαντινάδα(Mantináda)/ Mandinada;マンディナデスとも)と呼んでいますが、特にナクソス島のアピランソス村あたりではコツァーキと言うのだそうです。なお、コツァーキャはコツァーキの複数形です。

コツァーキャのトピックスは主に恋愛や風刺などで、即興的に演奏の中で歌い込まれます。そのせいか特定の歌詞というものは決まっていないようです。日本の民謡で言えば河内音頭江州音頭のようなノリでしょうか。

 

最後に、コツァーキャの踊りの例も紹介しておきましょう。

www.youtube.com

この動画は、クレタ島を拠点にギリシャ文化遺産の保存と普及を推進する団体、パラドシアコ・エルガスティリ・ホルー(Παραδοσιακό Εργαστήρι Χορού(Paradosiakó Ergastíri Choroú);伝統舞踊ワークショップ)によって公開されています。

踊りの形態は、Tポジション(両腕を横に伸ばし両隣の人の肩にそれぞれ手を置く)で互いにつながってライン(オープンサークル)を作り、多様なステップを踏みながらラインに沿って主に右手側に進みます。踊り方は、基本的にはラインの先頭のリーダーの動きに合わせます。ただし、ギリシャの踊りではリーダーが跳ねたり回転したりと個人パフォーマンスに走ることもよくあります。その場合は二番手あるいは三番手あたりの人を見て踊りを揃えることになります。

バックの生演奏からは、ニコス・ハヅォープロスの音源とは少し異なる、素朴で伝統的な響きを感じることができると思います。聴き比べて音楽を味わってみてください。