Balkan Folk Music Discography

バルカン半島~黒海周辺地域の音楽と踊りを深掘りするブログ

Chetvorno horo 〜Rachenitsaと異なるもう一つの7拍子〜(ブルガリア・ショプルク)

前回(2024年1月18日)と前々回(同1月12日)はラチェニッツァの話題を取り上げてきました。しかし、ブルガリアの7拍子の踊りと音楽はラチェニツァだけとは限りません。今回はラチェニッツァとは異なるタイプの7拍子の踊りの一つ、チェトヴォルノ・ホロ(Chetvorno horo)を紹介します。

 

最初はガイダ奏者ニコラ・アタナソフ*1による1980年代初頭の楽曲「Chetvorno horo」から。

 

Четворно хоро

Nikola Atanasov, "Chetvorno horo," Horos And Ruchenitsas, Balkanton ВНА-10891, Bulgaria (1982)

 

チェトヴォルノ・ホロはブルガリア西部のショプルク*2で見られる7拍子の民俗舞踊で、そのリズムや楽曲の名称としても用いられます。「チェトヴォルノ(chetvorno / četvorno / четворно)」という単語は「4つの部分の」、「4倍の」、「4重の」などを意味しますが、何が4つなのかは不明のようです。

 

同じ7拍子でも、チェトヴォルノ・ホロとラチェニッツァは拍子の中の構造が異なります。

ブルガリアの民俗舞踊の拍子は、多くの場合単純な2拍子(2)と単純な3拍子(3)を組み合わせた混合拍子で表されます(例外もあります)。この方法を用いると、7拍子の踊りは以下の表のように3通りに分類することができます。

 

  拍子
a

2+2+3

Rachenitsa,
Elenino horo*3,

b 3+2+2 Chetvorno horo,
Makedonsko horo,
Shirto horo, 他
c 2+3+2 -

 

上記a、b、cの3通りのうち、ラチェニッツァは一般にはこの表のaに相当し、チェトヴォルノ・ホロはbに相当します。他のブルガリアの伝統的な7拍子の踊りもaかbのどちらかに分類されます。cの組み合わせは伝統的なものにはありません。

 

8分音符を基準に小節を構成する場合、aとbは楽譜上ではそれぞれ以下のように書き表されます。

それぞれの譜表の下段は強拍(ダウンビート)を表します。踊りの場合は主にこの強拍の位置でステップを踏みます。

2つの踊りのステップの違いを動画で比べてみましょう。次の2つの動画のうち上はキュステンディルスカ*4・ラチェニッツァ、下はチェトヴォルノ・ホロの動画です。できるだけ雰囲気が似ている動画を選んでみました。どちらもブルガリア西部のショプルクの踊りです。

 

上)KYUSTENDILSKA RACHENITSA – WEST BULGARIA
下)CHETVORNO HORO - WEST BULGARIA

Bulg Folk

 

さて、両者の違いはわかりましたでしょうか?

単純比較は難しいでこれはあくまで私見ですが、短拍と長拍のどちらが先かという単なる順序の問題ではなく、最強拍(各小節の先頭)の位置に短拍がくるか長拍がくるかで、一歩一歩のステップにかかる重み、身体の重心のバランス、そして躍動の慣性が異なってきます。このような違いがそれぞれの踊りに独特のグルーヴ(ノリ)を生み出していると言えるのではないでしょうか。

 

なお、一般にラチェニッツァがブルガリア中央部のトラキアをはじめ全国の各地域で(それぞれの地域のスタイルで)踊られるのに対し、チェトヴォルノ・ホロは主に西部のショプルク辺りで踊られるようです。

 

最後は、チェトヴォルノのリズムの民謡「Hodih gore, hodih dolu」で締めたいと思います。歌ゲオルギ・ゴレルスキ(Georgi Gorelski)、指揮コスタ・コレフ(Kosta Kolev)。1960年代半ば頃の作品です。■

 

Ходих горе, ходих долу

Georgi Gorelski, "Hodih gore, hodih dolu," Balgarski narodni pesni, hora i rachenitsi, Balkanton ВНА-550, Bulgaria (1967?)

(歌詞および訳は割愛します。)

 

今回紹介した曲

Четворно Хоро

Четворно Хоро

  • Никола Атанасов
  • インストゥルメンタル
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes
Ходих Горе, Ходих Долу

Ходих Горе, Ходих Долу

  • Георги Горелски
  • ワールド
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

*1:Nikola Atanasov / Никола Атанасов。1937年タルゴヴィシュテ出身。作曲家二コラ・アタナソフ・キタノフ(Nikola Atanasov Kitanov)(1886-1969)とは別人。

*2:ショプルク(Shopluk)、またはショプスカ民俗地域(Shopska folklorna oblast)とも。首都ソフィアおよび西部の山岳地域を含む。2024年1月12日の過去記事参照のこと。

*3:Eleno Momeとも。7/8拍子の他、11/16, 12/16, 13/16拍子のバリエーションが存在する。

*4:キュステンディル(Kyustendil / Kjustendil / Кюстендил):北マケドニアと国境を接するブルガリア西部の州およびその州都。