Balkan Folk Music Discography

バルカン半島~黒海周辺地域の音楽と踊りを深掘りするブログ

Zemenska Rachenitsa ~ブルガリア西部の刺激的なメロディ~(ブルガリア・ショプルク)

前回に引き続き、ブルガリアの民俗舞踊・ラチェニッツァの話題を取り上げます。今回はアコーディオンによるラチェニツァ(7拍子)の楽曲、トライチョ・シナポフ「Zemenska Rachenitsa」を紹介します。

 

Земенска ръченица

Traycho Sinapov, "ZEMENSKA RUCHENITSA", akordeon, Balkanton BHA-10165, Bulgaria (1978)

※民俗舞踊の「ラチェニッツァ」については前回(2024/1/12)の記事をご参照のこと。

 

楽曲タイトルの「Zemenska」は、ブルガリア中西部のゼメンという町にちなみます。

首都ソフィアから南西へ約70km、鉄道でラドミルからキュステンディルへ抜けるほぼ中間の山岳の谷間にゼメンは位置しています。元々はベロヴォ村と呼ばれていましたが、村を通る鉄道駅 (ゼメン駅) の名前にちなんで、1925年にゼメン村に変更されました。1974年以来ゼメンは町として認定され、現在はペルニク州のゼメン自治体の中心地となっています。*1

 

 

この辺りのモザイク状の山岳地帯は、民俗学的にはショプルク(Shopluk)、またはショプスカ民俗地域(Shopska folklorna obrast)として知られます。 ブルガリア西部のソフィア市、ソフィア州、ペルニク州、およびキュステンディル州がこの地域に含まれます。

 

ショプルクの踊りやその音楽は、他のブルガリアのそれと比べて、特に速くて激しく演奏することでも知られています。そのような音楽の中でも、トライチョ・シナポフの「Zemenska Rachenitsa」のメロディは極めて刺激的です。

作曲者のトライチョ・シナポフ(Traycho Sinapov, 1942 - 2014)はソフィアのロマの出身、10歳でアコーディオンを弾き始めます。20 歳の頃にアコーディオンのレジェンド、ボリス・カルロフ*2に招待され、全国各地のコンサートに出演しました。国立振付学校では一流振付師とともに伴奏者として長年働き、さまざまなレパートリーを習得。そして、自身の楽曲の作曲も手掛けました。*3

 

この曲の巧みさは実際の演奏シーンで確かめるのが一番でしょう。参考例として次のアコーディオン演奏の動画を紹介します。

 

Bugarsko oro 7-8.mp4

Ratislav Blagojevic

 

セルビアのアコーディオニスト、ラティスラフ・ブラゴイェヴィッチ(Ratislav Blagojević)による演奏。「Bugarsko oro」はマケドニア語で「ブルガリアの踊り」を意味します。

実際にはこんな風に弾いているのですね。まるでギターを爪弾いているような、間奏での指の動きが興味深い。最後までほぼ休みなしの16分音符鍵盤連打も、一度も間違えずに弾き通せたら本当かっこいいだろうなぁ。トライチョ・シナポフの卓越した才能が垣間見えるようです。■

 

今回紹介した曲

Земенска Ръченица

Земенска Ръченица

  • Трайчо Синапов
  • ワールド
  • ¥204
  • provided courtesy of iTunes

*1:История - Община Земен [link]

*2:過去記事 【深掘り】Gankino Horo (Severnyashka, Bulgaria) - Balkan Folk Music Discography 参照。

*3:Трайчо Синапов - Wikipediaブルガリア語版 [link]