前回は北マケドニアのロマ(ジプシー)音楽の“Queen”、Esma Redžepova(エスマ レジェポヴァ)をフィーチャーしましたので、今回は“King”でいきます。といってもフラメンコのGipsy Kingsではありません。今回はサックス/クラリネット奏者の“King” Ferus Mustafov(フェルス ムスタフォフ)の曲を取り上げます。
まずはFerus MustafovのBilhenov Čoček(ビルヘノフ チョチェク)から
クラリネットのスピード感ある旋律と間奏の即興がとてもFerusっぽい(?)かっこいい1曲です。拍子は前回のNa Struga Duḱan Da Imamと同じ9/8拍子でテンポもそれほど違わないのですが、小刻みなパーカッションと超絶クラリネットが躍動的なノリを生み出しています。
同じ9/8拍子といってもリズムの取り方が前回のとは異なります。前回は「タンターンタンタン」でしたが、今回は「タンタンタンターン」になります。少し深入りすると、「タン(2)」のかたまりと「ターン(3)」のかたまり(数字は8分音符の数)で分けて、前者は「2-3-2-2」、後者は「2-2-2-3」のように表されます。この後者のリズムは主にブルガリアやマケドニアにおけるチョチェク(čoček)の一般的な形式の1つと言われています*1。
チョチェクとは19世紀初頭のバルカン半島で生まれた、ロマのブラスバンド演奏による音楽のジャンルとその音楽を用いたダンスを指します。英語などではベリーダンスと同義のように訳されることもありますが、必ずしもそうではありません。一般的にはこのリズムに合ったロマの人々によるダンス全般を指してい(るのではないかと思われ)ます。
実際この曲は、バルカンダンスではFeruzovo(フェルゾヴォ、by Atanas Kolarovski '93)という大勢の人がオープンサークルを作って踊る踊りとしてお馴染みの曲です。Feruzovoの意味は「フェルスの(踊り)」。
他にも、Feruzova Ezgia(フェルゾヴァ エズギア、by Atanas Kolarovski '89)という踊りがありますが、こちらは「フェルスの(即興)メロディ」の意味。Ferus Mustafovの即興演奏の妙味が感じ取れるタイトルになっています。楽曲はUskovo Oro(ウスコヴォ オロ)を使用しています。
(Feruzova Ezgiaの踊りの部分は1分56秒あたりから)
Ferus Mustafovは(おそらく1950年代の)ユーゴスラビア社会主義連邦共和国シュティプ(Štip、現・北マケドニア共和国東部最大の都市)生まれ。アルバム売り上げ枚数が平均10万枚を超える北マケドニアの大スターで、King Ferus Mustafovという名前でも有名です。また、バルカンフォークやロマの結婚式の音楽を国際的にポピュラーなものに高めたアーティストの一人としても認められています。
最後のシメに、Ferus Mustafovの音楽の世界が楽しめる曲をどれかもう一つだけ紹介したいのですが(どれも好い曲なのでどれにしようか・・)、彼の出身地にちなんだŠtipski Čoček(シュティプスキ チョチェク)を紹介します。
この動画では、Ferus Mustafovがサックスを吹くときの息の加減や指の動作などのテクニックがとても見やすくて参考になります。また1分28秒あたりからVeleško Oro(ヴェレシュコ オロ、Atanas Kolarovski '81)のフレーズもあって、バルカンダンスの方々は聞き覚えがあるかもしれません。音楽やる人にも踊る人にも聴いてもらいたい曲の1つです。
今回紹介した曲(アルバム)をまとめておきます。
Discography Infomation Title : Ora I Čočeci -> A4 Bilhenov Čoček from Discogs |
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Discography Infomation Title : Ferus Mustafov -> B1 Uskovo Oro from Discogs |
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Discography Infomation Title : King Ferus -> 8 Štipski Čoček / Bleh Čoček from Discogs |
私もこんな風にクラリネット吹けたらなぁ・・・(遠い目)