Balkan Folk Music Discography

バルカン半島~黒海周辺地域の音楽と踊りを深掘りするブログ

コトリャレフスキーへの鎮魂歌

現在厳しい状況に置かれているウクライナに少しでも関心を寄せてもらえればと、今回はウクライナの伝統楽器バンドゥーラと、それを演奏するウクライナ出身のバンドゥーラ奏者、ナターシャ・グジー(Natarya Gudziy)さんの歌に注目します。

急ごしらえですが、今少しでも自分にできることとして、私なりに紹介します。

 

www.youtube.com

題名:コトリャレフスキーへの鎮魂歌(レクイエム)
詩 :タルス・シェフチェンコ(1838)
作曲:ナターシャ・グジー

 

タルス・シェフチェンコ(Taras Grigorovich Shevchenko)は19世紀のウクライナの国民的詩人です。時代背景は19世紀の帝政ロシア。この当時、ウクライナはロシアの一部とされており、ウクライナの人々はロシアの圧政下にありました。そのような中でのウクライナの人々の悲しみや憂いを、シェフチェンコは詩に書きました*1

上の動画の歌詞には、シェフチェンコの詩集「コブザーリ(Kobzari)」の一節「コトリャレフスキーの永遠の記憶に(Na vichnu pam'yatʹ Kotlyarevsʹkomu*2)」の一部が使われています。歌はウクライナ語で歌われますが、動画中に日本語字幕がついています。一部を書き出すと

正義の魂よ
未熟だが わたしの真心を込めた
この言葉を 受けとめ受け入れたまえ
あなたは地上を去ったが
孤児を置き去らないで
ここへ来て ひとことで良いから
母なるウクライナのことを
謳いたまえ

あなたが貧しい孤児の家に コザックたちの栄光の
そのすべてを言葉にして伝えたのを見たときのように
異郷にいる私の心を微笑ませたまえ
たった一度微笑めれば それでいい

Translated by Nataliya Gudziy

(全文は動画字幕参照のこと)


またYouTubeの説明欄には

ウクライナの詩人 T. シェフチェンコが、ロシアのペテルブルクに送られ、アカデミーで学んでいたとき、コトリャレフスキーの死を知り、嘆き悲しんで著した詩の一部(1838年)。当時、ウクライナはロシアに虐げられ、ウクライナ語は禁止されていたが、コトリャレフスキーは、ウクライナ語で民族の魂を謳い続けた。

と記されています。

日本の報道等では「ロシアとウクライナは兄弟」というような説明をよく聞きます。しかし中央で専制政治権力を握るロシアとコサックが馬を駆る辺境の大草原のウクライナとでは、人々の意識にも温度差が生じるのは当然のこと。ウクライナが今なぜ独立を死守したいのか、シェフチェンコの詩が物語っているように思います。

 

https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/thumb/5/5d/Birko_bandura1.jpg/360px-Birko_bandura1.jpg
A Kharkiv-style bandura made by Andrij Birko, 2008
Beerco666, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons

 

次に、ウクライナの伝統楽器バンドゥーラについて。バンドゥーラは、上の写真のようにリュートと琴を合わせたような外見をしています。50から60までの弦が半音階で5オクターブに渡って調律されており、膝の上に構えて、高音を右手で、低音を左手で弾きます。コブツァーリと呼ばれる主に盲人の演奏者が各地を巡回し、ドゥーマと呼ばれる叙事詩等が歌われていた*3とのことです。日本で言えば琵琶法師のような感じでしょうか。

それにしても、ピアノやアコーディオンのように両手のそれぞれで弾き分けられるのはとても便利そう。もっとメジャーな楽器になっても良いのでは?

 

最後に、バンドゥーラ奏者のナターシャ・グジー(Nataliya Gudziy)さんについて。ウクライナ出身。6歳の時にチェルノブイリ原発事故で被曝。その後避難生活で各地を転々とし、キエフ(キーィウ)市に移住したそうです。8歳のころから音楽学校でバンドゥーラを学び、2000年に日本で本格的な音楽活動を始めたとのこと。

大変失礼ながら、このような方が長年日本で活躍されていたことを、私は知りませんでした。

ナターシャ・グジーさんは現在、コンサート、ライブ活動に加え、音楽教室、学校での国際理解教室やテレビ・ラジオなど多方面で活躍しているとのこと。作品は日本人向けのわかりやすい曲が多い感じです。逆にガチガチのウクライナ民謡だったり(私好みの?)バンドゥーラ超絶技巧というのはなさそうですが、これを機に他の作品も聴いてみたいと思います。

 

www.office-zirka.com

 

黒海の北側に面するウクライナに、少しでも多くの人に関心を持ってもらえれば幸いです。

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